2012.09.14

カントクさんにキャラクター原案をお願いした経緯を教えてください。

カントク(キャラクター原案、敬称略、以下同): 僕はやりたかったから、怖くて聞けなかったんですよ(笑)なんで僕なんですかとか。
シャフト岡田(アニメーションプロデューサー、敬称略、以下同): そうですよね。まず「プリズムナナ」という企画をいただいたときに「可愛らしい魔法少女」と いうキーワードをいただいたので、そこから想像を膨らませていきました。魔法少女もので一番最初に思いついたのが「ミンキーモモ」という作品だったんですよ。「ミンキーモモ」といえば可愛らしい絵柄だなっていう印象が強くて、そこを目指してデザイン のスタッフを精査しました。でもカントクさんに決めるのに時間はかからずといったところで、もともとお名前は知っていた のですが、決定的だったのはちょうど企画をもらった時期にカントクさんの絵が雑誌の表紙を飾っているのがたまたま目に入って、「ミンキーモモ」のイメージとバチッと一致したんです。
カントク: 背中合わせでジャンプしてるやつですか?
シャフト岡田: そうです。あれを見て「あ!」と思ったのが始まりで、そこからは早かったです。すぐにカントクさんにメールをお送りして、直接お会いしました。
カントク: 表紙をやってよかったです(笑)
シャフト岡田: 別のスタッフからいろいろな候補をもらっていたのですが、それは置いといて独断でカントクさんに決めました。「待ってて、藤森くん!」ってあったじゃないですか。
カントク: ありました。だいぶ昔ですね、懐かしい。
シャフト岡田: あの頃からカントクさんが頭の中にありました。それで今回の企画に照らし合わせて、「可愛らしい魔法少女」というキーワードにカントクさんが合致したというところです。

岡田プロデューサーの一本釣りだったのですね。

カントク: 意外でした。僕の前にオファーを出してダメだった方が何人かいるのかなって、何となく考えてました。
シャフト岡田: 「可愛らしい魔法少女」を具現化するために、一番に白羽の矢を立てたのがカントクさんだったので、受けていただいたときは本当に大喜びしました。
カントク: 光栄です。こちらこそ、有難うございました(笑)

では、カントクさんのキャラクターデザインについてうかがいたいのですが、デザインは一発でOKだったのですか?

カントク: そうです。僕の悪いクセで、決め打ちで出してOKをいただきました。いくつかアイデアを出してから方向性を決めたいとおっしゃる方が多いし、本来はそうすべきだとは思うのですが、誰にも見せないで1人で悩んで、組み合わせを考えちゃいました(笑)この方法だとダメって言われたときにヘコむんですけどね。

変身前のキャラクターがOKになってから、変身後のデザインに着手されているのですね。

カントク: はい。決め打ちで進めつつ、段取りは守って、変身前の3人を決めてから変身後をやろうと思ってました。
シャフト岡田: こちらのオファーとしてはカントクさんに自由に腕を振るっていただきたかったので、非常にキャッチーな絵をあげていただけて満足しています。変身後のデザインはカントクさんも悩まれたみたいで、3案出していただきました。でも最終的には全部第1案が通ってますよね。
カントク: そうなんですよね。「セーラームーン」や「おジャ魔女どれみ」みたいな感じで服装をガラっと変えずに全員共通のデザインがいいのかなって考えたりして、すごく悩みました。
シャフト岡田: デザイン会議時は、デフォルメしたり記号化してくれっていうオーダーだったと思います。でもカントクさんには3人のハート型リボンや武器でしっかり記号化していただいたので、何の問題もないですよ。オリジナリティというのは、人と違うことをやるところから生まれると思っているので、他作品に引きずられないカントクさんのいい面が引き出されていると思いますね。
カントク: ありがとうございます。

では、3人の少女たちのデザインについてカントクさんから解説していただけますか?

カントク: 岡田さんにも細かい解説はしてないんですけど、やっぱり自分の中ではいろいろ考えてるんで、言いたいことはいろいろあります(笑)例えば鷲岡至の場合は、メカをいじるメカっ娘っていう指定を最初にいただいたのですが、それは前面には押し出さない付加価値で、あくまでも今風のかわいい女の子っていうのをテーマにしました。おかげでテーマ無しみたいなもんなんで難しかったです(笑)ネジリボンは友人のアドバイスでつけてみたら意外とよくて採用しました。

至のアホ毛が気になるのですが。

カントク: 指定では軽くウェーブのかかった感じでくせっ毛風ってあったので、申し訳程度に上と横に足しました。結果、変身後に大きくできたという(笑)でもアホ毛といえばシャフトさんの作品だと…。
シャフト岡田: 自由に動きます。意思を持ちますね(笑)

浅木飛鳥についてもお願いします。

カントク: 飛鳥は変身後に緑髪になるじゃないですか。でも変身前の制服姿に緑髪は現実から離れすぎてるので、緑髪にはしたくなかったんです。だから薄めの金髪に緑色の影をつけて、緑髪とのギャップを緩和できるかなっていうギリギリの調整をしました。

飛鳥の頭のリボンはどうなっているのでしょうか?

カントク: 10年ぐらい前によく見た、一部を束ねて下ろすっていうのをやろうとしたんですけど、普通にやるとリボンが見えないし、リボンを大きくすると古臭くて野暮ったいので、着物の帯紐を参考にしてつけました。
シャフト岡田: ここはアニメのデザインを起こすときも結構デザイナーから問い合わせがありました。カントクさんに聞いたら「帯紐を意識して和風の飛鳥を強調しています」と回答いただきました。
カントク: 最初に2重になってる線の細い方は板なのか細い紐なのかって聞かれて、すいません紐ですって答えました(笑)
シャフト岡田: そうそう。最初は飾りの一種なのかなって。それか消し忘れか(笑)

織部琴音はどうでしょうか。

カントク: 琴音は完全に個人的な好みで描いたので、これといった狙いはないんですよ(笑)
シャフト岡田: でもですね、スタッフにキャラクター原案を見せて、一番評判がよかったのが琴音です。カントクさんが悩まずに描かれたというだけあって、一番カントクさんのカラーが出てるイラストになってますね。
カントク: ありがとうございます。僕としても気に入っているんですけど、周りの友人に聞くと、僕っぽすぎて逆に飛鳥の方がいいって言われます(笑)

琴音のデザインで解釈の難しかった部分はありましたか?

シャフト岡田: 変身後の頭ですね。
カントク: この水滴が浮いてるやつですね。これフィギュアとかどうやるんだろう(笑)
シャフト岡田: それは透明のパーツで頭と水滴を繋ぐんじゃないでしょうか(笑)

3人ともツリ目っぽいのはカントクさんの趣味ですか?

カントク: そうですね(笑)
シャフト岡田: カントクさんのキャラクターは基本的にツリ目調ですよね。
カントク: ツリ目調が多いですね。本当は至はわかりやすくタレ目にしてもよかったんですけど、ツリ目になっちゃいました。飛鳥がタレ目でもキャラクターは成立すると思うのですが、おしとやかな和風の子がタレ目ってありきたりで安直すぎてイヤです(笑)
シャフト岡田: カントクさんの絵だとツリ目でもキツい印象がないです。
カントク: たまに見る意思の弱そうなタレ目のキャラって、見ててイラッとしちゃうんですよ。言いたいことがあるなら言えよって思っちゃう。だからタレ目の琴音もやりたくなかったです。

変身後のデザイン についても教えてください。

カントク: 僕自身、魔法少女もののデザインをするのが初めてだったので、まずはやり慣れてる変身前の制服姿のデザインを確定させて、それをとっかかりにして変身後のデザインに着手したかったんです。何もない状態から魔法少女を考えるよりも、ある程度の縛りが欲しくて。でもやっぱり難しかったです。ただ、テーマだけは変身前よりも綿密に決めたんですよ。至は、よりポップにして、飛鳥はクラシカルというか落ち着いた雰囲気で、琴音は音楽の要素があったのでパンキッシュにしようと。飛鳥は和風という指定をいただいたのですが、弓矢で和風で魔法少女はさすがに噛み合わないなと思って、ちょっと変えました。
シャフト岡田: 変身後のデザインもスカートの丈の微調整ぐらいでOKだったんですけど、アニメーションを制作するときに、スタッフから至のガジェットの構造と仕組みを教えてくれって言われましたね。
カントク: それがちょうど三面図を描き起こすときだったので、すぐに三面図を送りました。僕はメカのデザインができないので、構造や仕組みはスルーしちゃうんです。
シャフト岡田: メカ好きのスタッフだったので、細かく考えていたみたいです。

最後にこのインタビューを読んでくださるファンの方にメッセージをお願いします。

カントク: 最初にデザインをするときにもらった設定というのが、僕のデザイン次第でどうとでもなりそうな柔軟な内容だったので、僕自身はそれに対してアイデアを出して個性を足しただけだと思ってるんですよね。この子たちがアニメーションとして本当に誕生するといえるのはもうちょっと先かなって。だから彼女たちが誕生するのを楽しみに待っていただきたいし、僕も楽しみにしています。
シャフト岡田: 今のコメントでカントクさんにすべて持っていかれたような感じがしますが(笑)やっぱりアニメーションって見ている方に感情移入してもらうのが一番幸せなので、至と飛鳥と琴音の3人が動きまわるのを見て、キャラクターを好きになってもらいたいですね。作品自体も魔法少女ものっていうジャンルにとらわれずに、キャラクターのもっと深いところを掘り下げて楽しんでいただきたいということに尽きます。

ありがとうございました。

PROFILE
カントク (イラストレーター・原画家)
代表作:CUBE「your diary」、MF文庫J「変態王子と笑わない猫。」他

岡田 康弘 (アニメーションプロデューサー)
シャフト所属