2012.10.19

まずは岩崎さんにパイロット版PV01のディレクターをお願いした経緯を教えてください。

シャフト岡田(制作プロデューサー、敬称略、以下同): この企画がスタートして、まず7本のパイロット版を作ることになったときに、整合性を優先して1本1本の内容を変に統一するのではなく、個性を際立たせて独立した作品として見せていこうと思いました。それで7人の監督とキャラクターデザイナーを立てようと思ったときに、何人か頭の中に浮かんだ候補の1人が岩崎さんです。こういう企画がありますって話を最初に振ったときに、岩崎さんがすごく話に乗ってくれて、2人で盛り上がったのが一番大きかったですね。やってみようっていう熱意もそうなんですが、最初の話し合いからこういう形にまとめたら面白いんじゃないかって、すぐ次の段階の話をしてくれたのでありがたかったです。

そのときはもうパイロット版PV01をお願いしようと思っていたのですか?

シャフト岡田: いえ、何番というのは決まっていませんでした。7本のパイロット版にはそれぞれにテーマがあって、いくつかは監督の目星もついていたので、残りのパイロット版についてどう?って話をしたんです。やっぱりオープニングにあたるPV01が一番大変だと思ったんですよね。作品の顔になるわけですし。でも岩崎さんには、そのPV01の監督を率先して引き受けてもらったので、正直言って感謝しています。

岩崎さんは、最初に「プリズム・ナナ」の話を聞いたときはどんな印象でしたか?

岩崎(パイロット版PV01ディレクター、敬称略、以下同): 最初は形というもの自体がなかったので、ゼロから作るのは面白そうだなって思いました。それでパイロット版のテーマが7つあるから、1つやってくれと。
シャフト岡田: ちょうど同系列のアニメが終わったタイミングでしたね。
岩崎: だからまずその作品と違うことをしなきゃねって言ってましたね。
シャフト岡田: そうそう。差別化を図ろうって話をしましたね。

違うものを作ろうっていう話をお二人の間で交わしたのですか?

シャフト岡田: 最初から「プリズム・ナナ」が狙うのは違うラインだなって思っていました。だから「プリズム・ナナ」を掘り下げていく打ち合わせを重ねました。オープニングという括りは、非常に大変だったと思います。キャラクターの発注もパイロット版の監督が個々にキャラクターデザイナーに発注していくっていう形で進めていたので、謎の新キャラが現れることもありました。
岩崎: 隠しキャラみたいなやつもいましたね(笑)
シャフト岡田: オープニングを担当したスタッフでは、キャラクターデザインの中村直人さんも前に仕事をしていて、非常に信頼をおける人です。しかもキャラクターデザインっていう仕事が初めてだったのにもかかわらず、一歩引くのではなく一歩前に出て話し合いに参加してくれたんです。岩崎さんもそうですが、本当にスタッフに恵まれたと思っています。皆さんモチベーションを高く保ってくれて、中村さんには作画監督というセクションも合わせて非常にこだわりをもって作業をしてもらえました。その集大成でパイロット版PV01ができあがったんじゃないかって思います。
岩崎: 参加したスタッフみんなに鬱憤が(笑)鬱憤という言い方は変かもしれませんが、本当に意欲がありました。普段はやれないこと、やらないことをやりたいってところがあったみたいです。
シャフト岡田: 岩崎さんがスタッフとの話し合いの中から、やれることやれないことの整理を含めて、うまく調整してくれたっていうところですね。自由にっていうのは言い過ぎかもしれないけど、各スタッフが実力を発揮できたんじゃないかと思いますね。
岩崎: クリーチャーデザイン担当の寺尾洋之さんも、その感じが強かったですね。デザインの発注は、ずんぐりむっくりしててでっかいみたいにテーマを伝えて描いてもらうことが多いですが、今回は大まかな設定だけ伝えてお願いしたら、パイロット版PV01の敵キャラがあがってきたんです。ここに吐き出したいものがあったんだろうなと(笑)その前後にやってた作品と全然毛色が違うんで驚きましたよ。あのデザインですから。
シャフト岡田: クリーチャーのシーンの原画もやってもらったんですよね。
岩崎: かなりお世話かけました(笑)

クリエイターの鬱憤が吐き出されるタイミングといろんな条件が揃ってパイロット版PV01が完成したんですね。

シャフト岡田: そうですね。

ではパイロット版PV01の内容についてうかがいたいのですが、鷲岡至の家が気になってしまいます。

岩崎: イメージと違うってことですよね(笑)これに関しては最初に設定を読んだ段階から、僕がこうだと思ってたデザインです。自動車メーカー社長の娘ってことで、名家キャラが浅木飛鳥とかぶるけど、ちゃんとした日本家屋に住んでた方がいいだろうと判断しました。もう1人の名家キャラはお城に住んでるからいいかなと。本当は家のデザイン的な資料もあったんですけど、そのままだとありきたりだったので、鷲岡家は木造建築にしちゃってます。
シャフト岡田: あの一連のシーンは浮いてますよね(笑)
岩崎: かなり浮いてますね。
シャフト岡田: 逆にそこを狙ったってところですよね。
岩崎: 埋没しない感じにしてトントントンとテンポよく見せたかったんです。食卓のシーンでは、「寺内貫太郎一家」みたいな定番のレイアウトにして、幅広い年齢層のフックになるように作っています。
シャフト岡田: 岩崎さんは昭和初期のイメージが結構好きですよね。
岩崎: そうですね。リアリティを感じられる気がするんです。

立派な日本家屋からスクーターが出てくるシーンもいいですね。

岩崎: 実はあのシーンには紆余曲折があって、どうにかスクーターを出すプロセスを見せたいと思っていました。本当はスクーターは至が自分で組み立ててるっていう設定を入れたかったんですよね。メカ少女の設定があって、それが発展してロケットを作りたいという話になっていくんだろうと想像しました。じゃあ古い蔵をガレージにして、そこでスクーターを組み立ててるエピソードを見せられないものかと。それは完全に入らなかったんですけど(笑)だからスクーターの一押し目はそのシーンから繋ぎたかったんですけど、流れが見えなくなっちゃうと思って今の形になりました。

街の中の発射台も設定にあったんですか?

岩崎: いえ、ないです。あがってきたものに適当にポンと置きました(笑)さっきも言ったようにロケットに主眼を置いた方がアニメ的にイメージしやすいかなと考えていたので、勝手な脳内設定で七業市は宇宙産業が盛んな街という方が、至も夢を見やすいと思ったんです。あの発射台で定期的に打ち上げが行われていて、それを見てる至のシーンも入れたかったんですけどね。

浅木家にも気になるところがあるのですが、飛鳥を見送ってる3人組は何者ですか?

岩崎: 飛鳥には兄貴が3人いて、お互いにシスコンでブラコンらしいみたいな設定があったので、どうにか入れられないかなと思って入れました。キャラクターデザインが出てくる前だったので、似ても似つかない板前になっちゃいましたけど(笑)ずいぶん過保護な家族なんだなと思ってもらえればいいかな。

至の瞳から宇宙空間に飛ぶシーンは、至の夢を表しているのですか?

岩崎: そうです。あのシーンにはもっと時間をかけていたんですけど、今の時間が限界でした。パイロット版は7本あるのでキャラクター性はほかのパイロット版で補完してもらえればいいかなと思って、パイロット版PV01ではこのぐらいのバランスがギリギリでした。オープニングとしては変身シーンはどうしても入れなきゃと思っていたんです。説明プロセスとして、いるだろうと。ほかのパイロット版には入らないと思ったんですね。でも後でほかのパイロット版を観て、エンディングでもしっかり変身してるーって思いましたけど(笑)

変身といえば、魔法少女のガジェットには並々ならぬこだわりがあったとうかがいました。

岩崎: そうですね。キャラクター原案があがってくる前から、メダルで変身するという設定があったので、それならしっかり玩具やグッズとして展開できる仕組みを考えた方が面白いかなと思っていたんです。カントクさんのキャラクター原案を見せてもらったら結構それっぽい見た目だったので、期待が高まって色々聞いてしまいました(笑)最初はメダルを置くとそこから魔法みたいに矢が出てくるとか、技を使うときにメダルが光るとか、いろんなプロセスを考えていたんですが、そんなの見せてる時間がなかったので諦めたシーンもあります。

パイロット版PV01には本当にたくさんの要素が詰まっていますね。

岩崎: だいぶやり過ぎてますね。
シャフト岡田: 編集は大変でしたよね。
岩崎: 岡田さんの顔が見られません(笑)最初はもっと長かったんですよ。それをギュッと90秒に収めました。
シャフト岡田: 映像をカットしたりとか。

ギュッと90秒にしたときにカットしたシーンで印象に残っているシーンはありましたか?

シャフト岡田: カットしたのは、ほとんど前半の日常のシーンですよね。
岩崎: そうですね。もっとプロセスを細かく見せていたのを、これでも意味が通じるギリギリまでって形でカットしています。
シャフト岡田: 90秒にまとめる中で、泣く泣くカットするっていう作業が2回ぐらいあったのかな。
岩崎: 泣く泣くというより、流れの中の気持ちいいタイミングで切るっていうのを重視してました。自分が作ったとこはちょっとゴネたりしましたけど(笑)でも変身してからの見せ場は用意したかったので、逆に追加したシーンもありました。
シャフト岡田: 前半の日常パートと後半の戦闘パートで、ガラっと雰囲気を変えようというのが最初からの狙いだったんです。岩崎さんから言われていたのは、媚びた作品にはしたくないということでした。
岩崎: 体裁は子供向けっぽくするっていうのは最初に決めました。過度にアニメファンに媚びた作りにはせず、日曜の朝に流せる雰囲気にしたかったんです。だから見た人には朝の空気というか、朝っぽい雰囲気を思い出してもらえたらなって思います。敵があまりグロい色になってないのもいい感じですね。
シャフト岡田: 元気系といっても完全に子供向けに作るわけにもいかず、どこをターゲットにするかっていうのは難しかったです。
岩崎: 子供向けっぽい元気系のオープニングにしつつ、そっちに偏り過ぎないよう考えた挙句にやったのが、クリーチャーの頭をぶっ飛ばすっていうシーンです(笑)

ほかの作品ではやってない斬新な試みですね(笑)

岩崎: 特に指定はせずに、絵コンテにやんわりと書いてあったんですけど、しっかり爆ぜる原画があがってきました。
シャフト岡田: パイロット版PV01は、オープニングらしくあくまでスタンダードな作りなんですけど、後半の戦闘パートの変化を強くしてアクセントにしたいっていう話だったんです。後半のビジュアルがわかりやすく変化してるのは、撮影監督の江上怜さんの頑張りが大きいです。それと異空間を設計した泥犬さんの力には非常に助けられていますね。
岩崎: あの空間設計は泥犬さんにしかできないですね。すごいありがたかったです。

独特でいいですよね。詰め込んでる感じもすごいあります。

岩崎: 最後まで岡田さんは詰め込み過ぎてるんじゃないかって、かなり心配していました。
シャフト岡田: パイロット版を作っていく過程でいろんなアイデアが出てきて、それを凝縮しすぎてしまったので、90秒のパイロット版PV01を見終えた後にどう余韻を残すか、ということを考えていました。ただ、パイロット版は7本あるので、余韻が残る作品があれば、勢いで見せる作品があってもいいだろうと、岩崎さんに諭されました。
岩崎: 渋い顔してましたよね。
シャフト岡田: そこはぶつかり合いで(笑)

最後にパイロット版PV01の見どころを教えてください。

岩崎: 月並みですけど全部です。本当に各部署、各セクション、作画から何から頑張ってくれた結晶なので、そこを全部観てください。よろしくお願いします。

ありがとうございました。

PROFILE
岩崎 安利 (アニメーター)
シャフト所属。「偽物語」各話絵コンテ、「かってに改蔵」メインアニメーター、他、シャフト作品の多くの作画監督を担当

岡田 康弘 (制作プロデューサー)
シャフト所属