2012.11.19

まずは沼田さんにパイロット版PV02のディレクターをお願いした経緯を教えてください。

シャフト岡田(制作プロデューサー、敬称略、以下同): 沼田さんとは昔から一緒に仕事をしていて、沼田さんはテレビ作品でオープニングやエンディングを担当されることが多いんですよ。内容の密度が濃くて、オリジナリティあるオープニングを作られるので今回の企画にぴったりだと思いました。でも最初にお話を持っていった時には、ちょっと難しいんで考えさせてくださいって言われて、いいお返事をいただけなかったんです。
沼田(パイロット版PV02ディレクター、敬称略、以下同): 制作スケジュールが厳しかったので、簡単には受けられないなと(笑)
シャフト岡田: その後もこちらから結構アプローチしましたね。やっぱりディレクターというのはスタッフと二人三脚で作業していくので、この方と一緒にやるのはどうですか?という感じで色々とスタッフを提案しました。
沼田: 自分の世界感をアウトプットするにあたり、キャラクターデザインと作画監督をどうしても坂井久太さんにやっていただきたくて、坂井さんからOKが出たので、それならば是非という感じでした。

始めから沼田さんがパイロット版PV02を作成する事に決まっていたのですか?

シャフト岡田: そうですね。ほぼ狙い撃ちです。メインのキャラクターが3人いる中の誰か1人やりませんか?っていう感じで。
沼田: 岡田さんから勧められたのが鷲岡至だったので、よしじゃあこの至って女のコを目一杯かわいく撮ろう!と思ったんです。でも依頼された頃は楽曲もまだできていなかったので、単なる曲のイメージ映像ではなくて、至のキャラクターから掘り下げました。初期設定にロケットを作りたいとか、空を飛びたいとかって部分的なキーワードがあったので、それを映像にしていくという段取りを踏んでいます。テレビアニメのオープニングやエンディングをディレクションするときは、テーマ曲の世界観を映像に反映させることもあるんですが、このPVではやってないです。
シャフト岡田: 絵コンテの段階で沼田さんから色々なご提案をいただいたのですが、すべて詰め込んでいると90秒で終わらないなと。それでいくつかのアイデアは諦めていただいたんですが、それでもやっぱり90秒では収まりませんでしたね(笑)

パイロット版PV02に登場する女の子は3人とも鷲岡至なんでしょうか?

沼田: そうです。元気、普通、ションボリの3人です。鷲岡至のPVだから至以外は出したくなかったんです。
シャフト岡田: それで作品になりますか?ってところから話し合いが始まって(笑)沼田さんとのやり取りの過程で至が3人に分かれるっていうアイデアが出て、今の形になりました。
沼田: 少女が成長する物語にしたかったのですが、PVという限られた時間の中で見せているので、本当に断片なんですよ。だから少女が頑張って、挫折して、泣いて、それでも立ち上がって、夢を叶えるっていう過程を詰め込んでいます。
シャフト岡田: 沼田さんが暗いというか、ものすごく重たい映像にしたい、とおっしゃって、至が落ちていくシーンから始まるんですが、1つの舞台の中で生活しつつ葛藤する至というのがうまく表現できてるんじゃないかと思います。
沼田: 至の可愛さに、ちゃんと根っこのあるフィルムにしたかったんです。キャラクターデザインの坂井さんのお力を借りて、いかにかわいい女の子を見せられるか、を追求しました。これってすごくやりがいがあるけど、カントクさんの絵に対して、僕たちの個性をどうやって反映させるのかが難しくもあるんです。結果、ほかのPVとかなり変わっちゃったと思います。元気な至とか落ち込んでる至とか、全部が至の感情を具現化した感じです。
シャフト岡田: 3人にしたおかげで映像に幅をもたせられました。あとセリフを入れたいというのも沼田さんのアイデアでしたね。
沼田: 今回は本当に自由に作っていいというお話をいただいたので、曲を途中で止めちゃって、セリフをつけて、音をつけて、ってやってたら、想定以上の規模になってしまったんです。やっぱりカントクさんのキャラクターがあって、僕なりの物語を作りたかった、そこまでやってみたかったんですよね。

セリフの「ここで、とべーー!」も沼田さんの発想ですか?

沼田: 単純に僕がいいたいことの1つです(笑)作り手として常々表現したいと思っていることがあって、その中からひとつ吐き出しました。本来ならあそこで変身した後に活躍する姿を見せるべきなんだろうけど、そこはきっと見た人の胸の内にあるんですよ。あとは「プリズム・ナナ」本編に繋がるのかなと。
シャフト岡田: セリフが入ると印象が強く残りますよね。効果音を入れたりしたのも、見終わった後に余韻を残るのを狙いました。

元気な至と落ち込んでる至が重なるシーンがありますね。

沼田: 至自身が成長していく過程で、努力はするんだけど挫折するんです。でも最後は挫折した心から何かを受け取るんですね。それが何かは説明していないんですけど、彼女はそれをきっかけに変身するんです。この変身をどう捉えるか、成長なのか、それとも本来の姿なのか。その後、ロケットが飛んで、彼女の中で1つの結果が出たと。そういう物語になっています。

ロケットやバスタブ等も印象的ですが、これらにはどういった意味があるのでしょうか?

沼田: かわいい女の子とロケットのミスマッチというか。ロケット作る少女って、意味わかんないじゃないですか(笑)すごく頭がいいとは思うんですよ。そのへんをいかにファンタジーにしつつ、かわいく見せつつ、なんとなくこの子が作ってるんだなっていう感じを出すのを、どう見せるかっていうのが課題でもありました。とにかく自由な制作態勢だったので楽しかったですね。
シャフト岡田: 全部を説明すると長くなってしまいますが、1つ1つのモデルを探してもらうと楽しいかも知れないですね。何気なく置いてあるもの1つにも、かなりのこだわりを持って置いています。
沼田: 美術周りの設定には特に時間をかけました。美術監督の針生さんには頭が上がらないです。そして何より、色彩設定を坂本さんにお願い出来て嬉しかったです。かわいい画には、かわいい色が必須です。本当にかわいく仕上げて頂けました。今回は岡田さんのご尽力で、沼田の希望通りのスタッフィングにして頂けて、本当に嬉しかったです。
シャフト岡田: アニメーションというのは大人数で作るもので、背景も通常は10~20人という人数で作るものなんです。でも、このPVの背景は針生さんがお1人でやってくださったおかげで、非常に統一感あるものに仕上がりました。坂井さんもそうですけど、パイロット版PV02はスタッフさんがハマって、力を発揮してくださっているのが出来上がりに現れています。
沼田: 各スタッフそれぞれの「かわいい」が詰まったフィルムになったと思います。

最後にパイロット版PV02の見どころを教えてください。

沼田: 絵がかわいい、声がかわいい、音がかわいい(笑)やっぱり至ってかわいいよね。このPVは、ある種アイドルムービーみたいなもので、僕にとっては、どれだけ至に迫れるか、至を好きになれるかっていう勝負だったので、至への愛で溢れているはずです。そこを観てください。

ありがとうございました。

PROFILE
沼田 誠也 (アニメーター)
「探偵オペラミルキィホームズ」キャラクターデザイン・総作画監督を担当
他、多くのアニメーション作品に関わる

岡田 康弘 (制作プロデューサー)
シャフト所属