2012.12.14

PV03の監督を宮本さんにお願いした経緯を教えてください。

シャフト岡田(制作プロデューサー、敬称略、以下同): PV03は私の中で、背景素材をディレクションズにお願いすると決めていました。実はその素材構築に時間がかかって、それ以降の期間が他のPVに比べて短かったのですが、宮本さんが以前他作品でディレクションズと一緒に仕事をしていることから、お願いしました。時間がないという意味では、本当に申し訳なかったですね。
宮本(パイロット版PV03ディレクター、敬称略、以下同): あの時間内ですからね……(苦笑)。コンテもよく間に合ったなあと。
シャフト岡田: ただ、どのコンテンツ業界もそうですが、時間=クオリティじゃないんですよね。PV03では待ったなしの状況がうまくはまって、より作り手の勢いが入った。できあがった映像は高いレベルになっていると思います。

ディレクションズが手がけたのはどのあたりですか?

宮本: 主に背景素材作りですね。後半、飛鳥が立ち上がるシーンはスタジオちゅーりっぷで、そこ以外はすべてお願いしました。

素材が和で統一されていますね。

シャフト岡田: 和の素材をたくさん作ったので、うまく採り入れて作っていこうと。「飛鳥のPV」というテーマを、和の世界観でどうまとめていくのか、コンテの佐々木(満)さんと顔を突き合わせて打ち合わせました。
宮本: ストーリー仕立てになっているのは、佐々木君らしいですよね。
シャフト岡田: どの素材を抽出すればいい絵になるかのチョイスは、宮本さんの嗅覚です。ホント、宮本さんには頭があがりません!
宮本: ええー?(笑)
シャフト岡田: (笑)今考えると、最初に素材があったから、絵コンテもブレずに作れたんだと思います。打ち合わせもスムーズにこなせて、時間のかかるセクションもかなり短縮できて、最終的な映像に落とし込めた。まあ、製作当時は駆け足だったので、そんなこと考える余裕はなかったですけど(笑)

具体的なシーンについて伺っていきたいのですが。変身前の飛鳥はカントク原案に近いデザインですが、回想後は原案より大人びた印象です。これは意図的ですか?

宮本: 特に指定はしてないですね。単純に作画監督の篠原(健二)さんの趣味じゃないでしょうか?(笑)あと、確か菊田さんが設定よりもおっぱいを大きく描いてきたんですよね(笑)作監修正で小さく描き直したのに、菊田さんが原画時にまた大きく描いてきて。それでまた作監が小さく直すという。
シャフト岡田: 原画と作監のバトルですね(笑)
宮本: 変身シーンの原画は菊田幸一さんの担当で。僕が「カット増やしていいですよ」と言ったら、本当に増やしてきたんです。おかげで豪華になりました。

他に、スタッフとのやりとりで印象に残っていることはありますか?

宮本: あらかじめ原画さんの個性を把握して、「この人に頼めばこれがあがってくる」と予想してたんです。たとえば冒頭を担当した谷口(淳一郎)さんは、美少女は美少女になるクセがある。中盤の兄のシーンは佐々木さんが担当、柱梁以降のシーンは止めまで菊田さんが手がけてるんですが、菊田さんがやると艶めかしくなるんですよね。指示としては、「裸だけはダメ」と一言付け加えるくらいでした。
シャフト岡田: 菊田さんについては、もともと知っていた方で、なんとなく「後半を頼もう」という暗黙の了解があったんですよね。スピード解決でしたね(笑)
宮本: 僕は、菊田さんにまかせた時点で大丈夫だと思ってました。『生徒会役員共』のEDを担当した方ですし、たぶん暴れてくれるだろうと……そして案の定、暴れてくれました(笑)
シャフト岡田: PV03は、全7本のうち原画の人数が一番少なくて、4名のみ。そのぶん個々のカット数が多いので、シーンがきれいに統一されましたね。90秒の統一感がかなり出てるなと。「なんとか時間内につくろう」という出発点の勢いも、いい方向に出ました。90秒間、ブレずに機能している。これも一つの作り方であり、正解なんだと思います。

兄のシーンに関しては、「飛鳥が兄を失った哀しみから変身した」とも捉えられる演出ですが、どう解釈すればいいのでしょうか。

宮本: 実際は死んだわけじゃないんですけど……。でも観た人の100人中100人は、「兄さん、死んじゃったんだ」と思う演出ですよね。
シャフト岡田: ただ、僕らは答えがわかるような映像は目指してないんですよ。それよりは、「なんじゃこりゃ?」「よくわかんないけど、なんかすげえ!」と思わせるものを作りたい。だから、各カットの整合性より、印象やかっこよさを重視しています。つまらないところに時間をかけて結局映像もつまらなくなってしまうことは避けて、一点集中で一番効果的なところに力を入れてます。
宮本: PV03に関しては、とにかく派手にしようと、光をたくさん使いました。

飛鳥が見上げる5つの月など象徴的なシーンも多いですが、そこも「これが何か」というより、印象の強さを重視しているわけですね。

シャフト岡田: 大切なのは観た方の印象なので、答えを制作側が言ったら面白くないですから。
宮本: 逆質問で、「皆さんはどう思いますか?」と聞きたいですね。ただ、一つだけ答えられることは……5つの月は、岩崎さんが描いた絵がもとになってるんです。もともと月を動かすつもりで、5つ描いたそうです。でも僕がそれを見て、なるほど、月が5つあるのか、と勘違いして5つにしました。言ってみれば、解釈を間違えたらこうなったと(笑)

その解釈の違いで、ぐっと幻想的になっていますね。

宮本: 5つの月含め、柱梁の空間や、変身後の飛鳥が立つ焼け野原のような荒野にも注目してみてください。
シャフト岡田: 飛鳥の心情を語っている演出が、ユーザーにうまく伝わったらいいですね。

それぞれのシーンと楽曲とが一番合っているPVだとも思ったのですが。そこは意識したのでしょうか?

シャフト岡田: やはり曲ありきでイメージを出そうと。曲をよく聴いて、それに一番ハマるカット内容を、コンテ、演出、監督が頭をひねって考えました。曲の内容と映像をリンク、シンクロさせられたのは、やはりコンテと宮本さんの力ですね。
宮本: 時間内にやろうとしすぎて、実はあがってきたカット数が少なかったんですよ。
シャフト岡田: カット数が多いと切り替えも多いので、曲の節目節目で合わせやすいんですよね。

ちなみに裏話として、実は当初飛鳥のキャラを3Dにするという案もあったそうですね。

宮本: 時間がなくてなしになったのですが。お花の3Dは、佐々木さんが残して活かしてますね。……ああ、話してるといろいろ思い出してきました。
シャフト岡田: 深くお話したおかげで思い出せました。よかったです。
宮本: あの時は、とにかく時間はないけどやってやるぞ! という気持ちでした(笑)。
シャフト岡田: 今後もいろいろと新しい試みをやっているので、喜んでもらえると嬉しいですね。

PROFILE
宮本 幸裕 (演出)
多くのシャフト作品で演出を担当
「劇場版 魔法少女まどか☆マギカ」前後編では監督も務める

岡田 康弘 (制作プロデューサー)
シャフト所属