2013.04.17

パイロット版PV06で岩本さんを起用した経緯を教えてください。

シャフト岡田(制作プロデューサー、敬称略、以下同):まず新しい事をやりたくて、広く映像クリエイターを発掘しようと、様々な映像をチェックしていました。動画共有サイトってあるじゃないですか。そこに並んでるサムネイルを適当にクリックしたら、すごいハイセンスな映像が流れたんです。あまりアニメ業界ではやらないカットの繋ぎやデジタルのエフェクトを使ってて、見せ方のインパクトがすごかったですね。非常に感銘を受けました。動画のページにお名前が入っていたので、すぐに調べて岩本さんに連絡をして、今回の企画をお話したら乗っていただいたというのが出発点ですね。
岩本(パイロット版PV06ディレクター、敬称略、以下同):見ていただいたのはかなり昔の作品ですね。今はもう作品の公開もやってないんですけど。
シャフト岡田: 今でも通用するインパクトがありますよ。10年ぐらい前の作品でしたっけ?
岩本: はい。9年前の作品ですね。
シャフト岡田: 社内の現場の演出陣にどう?って見せたときも非常に好評でした。アニメ業界は今けっこう決まった見せ方の取り合いみたいなところがあるのですが、岩本さんの映像はまったくアニメ業界にない見せ方だったので新鮮でしたね。

岩本さんが発表されていたのはCGムービーですか?

岩本: はい。CGムービーがメインでした。まさかそれでアニメ業界の方から声をかけていただけるとは思っていなかったですね。パイロット版PV06でセル画を本格的に扱ったのが初めてだったので、悩んだ事が多々ありつつも楽しかったです。
シャフト岡田: 岩本さんにはパイロット版PV06が「海のイメージで3人の女の子が楽しそうにはしゃいでる」というポイントを説明して、絵コンテから、各現場の担当スタッフへの素材イメージを伝えてもらったり、最終的な撮影というセクションも担当してもらったりして、映像化する過程をトータルで見ていただきました。セルと背景以外のほぼすべてに携わっていただいた感じですね。
岩本: 色々とやらせていただきました。絵コンテをきるのも初めてだったの、これでいいのだろうかって悩みながら進めてました。
シャフト岡田: 初めてだったんですね。その割にはあがってきたのが速かった印象があります。逆にアニメーターが足を引っ張るような格好になって申し訳なかったです。岩本さんからクオリティの高いものがあがってきて、スタッフの士気が上がったのは確かですよ。
岩本: ありがとうございます。

パイロット版PV06は他のパイロット版と違って、変身シーンがなかったり、制服姿がなかったりと、かなり設定を振りきってるような印象があります。

シャフト岡田: それはこちらからのオーダーでした。パイロット版が7本あるんで、1本は異色な感じにしようと。ほかはコテコテの魔法少女ものだったり、妙に何かを匂わせたりしてますが、パイロット版PV06は変身シーンすら入っていません。
岩本: 魔法のシーンはあるのですが、全面的に遊んでる映像になっていますね。そういうのがあってもいいのかなって。
シャフト岡田: 一応修学旅行で来たという設定なんですけど、他の生徒が誰もいないじゃないかってところは考えずに(笑)まあ、無人島で遊んでる3人という感じですね。水着は新たに設定を起こしていただいたので、3人の個性は発揮できてると思います。やっぱり映像がキレイだし、繋ぎにも相当こだわっていただいたので、他のパイロット版にはない特色が出たと思います。
岩本: 繋ぎにはこだわりました。それと兎にも角にもかわいくとキレイにっていう発想だったんです。他ではやってないことをしたいっていうのもありました。
シャフト岡田: 暗い色を避けて明るいパステル系の色でまとめているのも成功していると思います。
岩本: ありがとうございます。初めてのアニメだったので、どういったものができるかわかってなくて、最初のテイクではちょっとアニメに寄り過ぎていたんですけど、途中で気づいて変えました。プロモーション映像的にもっと面白い表現でやった方がいいと思って、カットの繋ぎとかを変えたんです。
シャフト岡田: テイクけっこういただいたんですよね。テイク3ぐらいまでいただいたんでしたっけ。ビーチボールがスイカになるカットとかは、前のテイクでは違う見せ方でしたよね。テイク1の映像を見て、こちらのイメージを伝えて、岩本さんのイメージを聞いて、すり合わせていってこのパイロット版PV06になりました。

修学旅行の他にはどんな設定があったのでしょうか?

シャフト岡田: もちろん魔法少女っていうベースの設定はあったんですけど、あえて魔法少女っていう設定を外してもらったんです。あまりいい言葉じゃないですけど、パイロット版PV06に関してはいわゆる水着回みたいな扱いですね。途中にこういう回を挟んだ方が落ち着くんですよ。頭を空っぽにして見られる回が必要なんです。パイロット版のアクセントにもなってますしね。パイロット版PV01からパイロット版PV07まで通して見るとよくわかります。
岩本: リラックスして見てもらえれば(笑)

あと楽曲の歌詞をすごく意識された内容になってますよね。

岩本: はい。かなり意識しましたね。歌の情景からイメージを広げた感じです。修学旅行に行ったらこういうことがあったらいいよねっていうビジュアルを並べたカタチになってますね。
シャフト岡田: スイカ割りをしたり、砂で何かを作ったり。
岩本: 色々と仕込んでますよ。一時停止するとやっと見えるようなレベルで(笑)

3人が遊んでるビーチはどこかモデルになった場所があるんでしょうか?

岩本: 南国のビーチのいろんな資料を見て、一番キレイなものを選択して、イメージを膨らませて作りました。直接モデルにした土地はないです。魚がいたりとか、サンゴ礁があったりとか、一瞬一瞬のカットにかなり要素を詰め込んでるんで、モチーフは色んなところから持ってきています。
シャフト岡田: そこのこだわりもすごいですよね。光の射し方とか、透き通った水の表現だとか、アニメっぽくないです。随所に出てくる「Beautiful」とか「Angel」の文字も読ませるというより、テンポとデザインに生かされてますね。
岩本: そうですね。キャッチコピーやキーワードになるものを出したいなと。ただテロップみたいに出すよりもデザインとして一枚の画として面白く見せたいと思ってああいうカタチにしました。
シャフト岡田: 歯切れがいいというか、流れがキレイに出てる感じですよね。

パイロット版PV06を作るにあたって苦労した点を教えてください。

岩本: やっぱり水の表現ですね。水の処理をどうやったら、アニメに馴染みつつ、いかにもアニメという感じにならないか、で悩んで、色々と試行錯誤しながら進めました。
シャフト岡田: 途中で水の飛沫があがるところや、琴音が魔法を使うところなんて大変だったんじゃないですか?
岩本: そうですね。
シャフト岡田: ああいったビジュアルのエフェクトって、トライアンドエラーを重ねて映像を完成させるしかないので、とにかく時間がかかるんですよね。
岩本: デザインをこうやりたいっていうカタチは決まっていたので、それはすぐに落とし込めたんですけど、水の表現は難しかったです。
シャフト岡田: 後半は水ばかりですからね(笑)
岩本: ほとんど水ですね(笑)

アニメ業界の方ではない岩本さんとのやりとりで苦労した事はありましたか?

シャフト岡田: アニメ業界の作り方だと途中経過でのチェックという工程がけっこうあって、そこでのやりとりから発想が膨らむこともあるんですが、パイロット版PV06では、途中でストップをかけてしまうより集中してもらおうと判断して、完成した状態で納品していただきました。そこからのチェックだったので、逆に岩本さんが大変だったんじゃないですか?
岩本: いえ、いつものやり方だったので特に大変ということはなかったです。
シャフト岡田: アニメだと90秒なら30カットぐらいになるので、1カット1カット個別にチェックして直せるんですけど、全部一発勝負になってキツくないかなというのが気になってました。
岩本: 並べてみて繋がりの悪いところは直してもらいつつやってましたが、そこまで苦労はしなかったですよ。1カット1カットの作り込みでリテイクを出されたときもなるほど、という感じで。
シャフト岡田: 岩本さんの昔の映像の印象が強かったので、岩本さんらしさをガンガンに入れて欲しいって話をしてましたね。
岩本: はい。かなり言われました(笑)
シャフト岡田: このパイロット版PV06はその成果ですよね。
岩本: そうですね。自分らしさっていうものをもう1回考え直して、みたいなところもあったりしました。色々と考えさせていただいた作品なので、非常に思い入れがあります。

では最後に、パイロット版PV06の見どころを教えてください。

岩本: 1カット1カットを何度も何度も見返して欲しいです。細かいところまで作り込んでいるので、そこに注目してください。
シャフト岡田: 本当に色々と仕込んでいるので、探してください。一瞬のカットにもかなりのこだわりが詰まってます。

PROFILE
岩本 拓也 (デザイナー)
KIZAWA Studio所属の映像作家

岡田 康弘 (制作プロデューサー)
シャフト所属